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講演内容概要


[第122回研究会] 健康医療部会研究会
最近の新型インフルエンザの状況と対策

日  時: 平成21年11月17日(火) 午後3時〜午後4時30分
会  場: 如水会館3階「松風の間」(東京・竹橋)
講  演: 『最近の新型インフルエンザの状況と対策』
尾身 茂 氏
自治医科大学 地域医療学センター公衆衛生学部門 教授
名誉世界保健機関(WHO)西太平洋地域 事務局長
新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会 委員長

 新型インフルエンザ(A/H1N1)の世界的大流行を受け、健康被害と経済・社会への影響が懸念されている。その特徴として、「感染力は強いものの、感染者の多くは軽症で回復している」、「抗インフルエンザウイルス薬による治療が有効である」ことが指摘されているが、夏期から秋口にかけての感染者数の大幅な増大に伴って重症例、死亡例が増加するような事態も予想される。折しもこの10月23日、米国内の死亡者が1,000人を超えたことを受けオバマ大統領が非常事態宣言文に署名するなど、今後の動向が注視されている。
 政府でも、世界的に感染が拡大しはじめた段階から感染拡大の防止対策を展開、「新型インフルエンザ対策本部」を設置し「基本的対処方針」を決定するなど、初期段階から積極的な対策を行っている。
 当機構 健康医療部会では、新型インフルエンザ対策本部の専門家諮問委員会 委員長の尾身 茂 先生をお招きして、新型インフルエンザの状況と対策の方向性についてご講演いただいた。尾身先生は、東京都、厚生省(当時)の公衆衛生担当官を経て、90年代より世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局の感染症対策部長、WHO 西太平洋地域事務局長などを歴任され、当時流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の対策で尽力された。なお、座長である田中慶司 先生はこの9月より当機構の理事、健康医療部会 部会長に御就任いただいている。

新興感染症の出現とその歴史
 新型インフルエンザについて触れる前に、近年の新興感染症の出現状況を見てみると、1957年のアルゼンチン出血熱から2003年のSARSまで、年間平均1つの新しい感染症が現れ、多くは人獣共通感染症である。昨今のSARSや鳥インフルエンザの新興感染症の脅威から、それらの流行が単なる偶然なのかそうでないのかが気にかかるところである。
 20世紀に発生し、大流行したウィルス(インフルエンザ)としては、1918 年のスペイン風邪(H1N1 型)、1957年のアジア風邪(H2N2型)、1968年の香港風邪(H3N2型)が挙げられ、順に約4,000-5,000万人、約200万人、約100 万人の死者を出したが、その総数は減少しており、しかもアジア風邪以降の 40 年近くは大流行が発生していない。この理由は大流行に備えた対策が長期にわたって整えられ、非常事態であることの認識の徹底と、感染拡大化防止のための選択・優先・連携による総力戦がなされてきたことによる。
 実はインフルエンザの歴史は古く、すでに紀元前412年に古代ギリシアの医師ヒポクラテスがその流行について記述している。その後も周期的に発生し、16世紀の占星術師たちが、星や寒気の影響(influence)だと考えたことがインフルエンザの語源となった。日本でも源氏物語の中で「しはぶきやみ」と表現され、江戸時代にはお駒風邪、信濃風邪などと呼ばれ、1716年頃の世界的な流行と一致した。

新型インフルエンザの特徴と現状
 今回の新型インフルエンザは豚から人に感染したもので、1918年のH1N1型が再来したのではないが、それが継続しているのだとされる。本年5月22日付のMMWR(週刊疾病率死亡率報告)によると、新型への免疫を持つ者は60歳以上で33%、18-60歳では6-9%、小児では0%であり、若ければ若いほど免疫を持っていないことになる。
 新型インフルエンザ患者の特徴においてもこの傾向ははっきりとしており、日本での入院患者は10代以下が多く(42.2%)、高齢者が少ない。また、入院患者の半数弱はぜんそく、糖尿病、腎機能障害、慢性心疾患などの基礎疾患があり、以上の傾向は世界的に見ても大差がない。なお、若者の感染者は多いとはいえ、死亡者は基礎疾患を持つ高齢者に多い。

インフルエンザワクチンの有効性と安全性
 インフルエンザワクチンは、重症化や死亡防止については一定の効果はあるものの、感染防止や流行の阻止については効果が保証されないため、万全ではないことに注意しなければならない。また、稀ではあるが重篤な副作用も起こりうるし、輸入ワクチンについては未知数の要素がある。

日本での対策の評価と今後
 新型インフルエンザを防ぐ初期段階では、空港などでの検査による水際作戦が取られた。潜伏期にある者や病状が軽めの人を通過させてしまったため、本質的な限界点を露呈したが、それでも一定の効果があったと考えられる。さらに感染が拡大するようになると、学校閉鎖の実施、感染防止の行動計画が高病原性を想定して行われたことや、マスコミで大きく取り上げられたことなどによる効果があり、他にタミフルの投与などによる医療体制の充実や国民の予防意識が高いことから、日本では死亡者が少ないという結果に繋がっている。
 今後とも社会全体で感染の広がりを防ぎ、一人一人が予防を徹底していく必要がある。その対策目標を簡素な言葉でまとめると、基礎疾患のある人、若い人、妊婦などが重篤化することを避けるため、国民一人一人が感染しないよう、そして他の人に感染させないよう注意する必要がある。

 日本社会が忘れかけている、“お互いに助け合う精神”が感染の拡大化防止に有効なのであり、今日こそその精神が求められているのである。